介護に関わっている人の中には、老人ホームの経営をしてみたいと思っている人も多いのではないでしょうか?



しかし、老人ホームもたくさんの種類があるため、今から経営をするにはどういうものを選んだらいいか悩んでいる人もいるでしょう。



老人ホームの中でも近年増加傾向にあるのが、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下:サ高住)です。



そこで今回は、老人ホームを経営するなら有料老人ホームとサ高住のどちらが良いかをお伝えします。



 



老人ホームの経営では事前準備と綿密な事業計画が大切







老人ホームのうち介護保険施設は、医療法人や社会福祉法人などの限られた団体でなければ運営することができません。



ですから、民間で運営できる老人ホームは有料老人ホームかサ高住に限定されてしまいます。



実際に、有料老人ホームとサ高住を運営している会社の約60%が株式会社です。



私の住んでいる町にある有料老人ホームとサ高住も、運営会社の多くは株式会社で社会福祉法人や医療法人はごくわずかとなっています。




【引用:公益社団法人有料老人ホーム協会 平成25年度調査研究報告書】



つまり、民間から老人ホームの経営に参入するためには、有料老人ホームかサ高住を選択した方が良いということがわかります。



それでは、実際に経営した場合どのようなメリットとデメリットがあるか、見ていきましょう。



有料老人ホームやサ高住は介護サービスの中では収益率が高い




有料老人ホームやサ高住を経営する最大のメリットは、他の介護サービス事業に比べて収益率が高いことです。



実は、介護サービス事業は他の業種に比べると収益率が低いと言われています。



なぜなら、介護サービス事業は対人サービスであるため、支出に占める人件費の割合が高くなってしまうからです。



一般的に人件費の割合が高いと収益率は下がるため、老人ホームの経営は収益性が決して良いとは言えません。



しかし、介護サービス事業の中でも有料老人ホームやサ高住では、「入居一時金」「家賃」「食費」「管理費」などの介護報酬以外の収入があります。



そのため、介護サービス事業の中でも収入の割合が高く人件費の割合が低くなります。



つまり、介護サービス事業の中では比較的収益性が良い方だと言えるでしょう。



介護事業の倒産件数は過去最多




老人ホームの経営の最大のデメリットは、ずばり倒産です。



東京商工リサーチによると、2017年の老人福祉・介護事業の倒産件数は111件となっています。



前年と比べると2.7%増加しており、2000年以降では過去最多となっています。



私の住んでいる町でも介護事業者の倒産が1件出て、仕事場で話題に上ったほどです。



倒産原因別で見ていくと、「事業上の失敗」が前年に比べて約44%も増えました。



急増の原因は、事前の準備や事業計画が甘いまま介護事業に参入したことで、経営に行き詰まった民間企業が多かったからと考えられます。



つまり、老人ホームの経営では、しっかりと事前準備を行い綿密な事業計画を立てることが大切だと言えるでしょう。






 

老人ホーム経営では有料老人ホームとサ高住の違いを知っておこう







実際に老人ホームを経営するとなった時には、有料老人ホームもしくはサ高住のどちらかを選択することになります。



しかし、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅とは、そもそも所轄している省庁と根拠となる法律が違うため、設立条件などに大きな違いがあります。



そのため、有料老人ホームやサ高住の安易な選択は、その後の経営に大きく影響してしまいます。



ですから、2つの違いをよく理解してから選ぶようにしましょう。



有料老人ホームとサ高住の違いは以下の通りです。



有料老人ホームは老人福祉法に基づいている




有料老人ホームは、「老人ホーム」と名前の通り、老人福祉法に基づいて設置されている施設です。



厚生労働省が管轄しています。



有料老人ホームを開設して経営するためには、下記のような設備基準と人員基準を満たさなくてはいけません



設備基準




一般居室または介護居室の介護保険指定基準は以下の通りです。




  • 居室は原則個室で地階に設けない
  • 居室の一人当たりの床面積は13㎡以上
  • 一般居室での介護の提供が可能であれば、介護居室は設けなくてもよい



  • 設置すべき設備は次の通りです。




  • トイレ
  • 浴室・脱衣室
  • 洗面設備
  • 食堂・談話室
  • 機能訓練室
  • 汚物処理室
  • 事務室
  • 洗濯室
  • 医務室または健康管理室
  • 看護・介護職員室
  • 緊急通報装置(ナースコールなど)
  • スプリンクラー



  • また、廊下の幅は1.8m以上必要です。



    ただし、車いす同士がすれ違うスペースが設けられている場合には、1.4m以上となります。



    人員基準




    住宅型有料老人ホームでは、入居対象者を元気な高齢者としているため、人員基準はありません。



    介護保険に基づく人員基準があるのは介護付き有料老人ホームです。



    具体的な基準は以下の通りです。



  • 生活相談員:利用者100人に対し生活相談員が常勤で1名以上
  • 看護職員または介護職員:要介護・要支援の利用者3人に対し1人以上
  • 計画作成担当者:利用者100人に対して1人以上必要 兼務可
  • 機能訓練指導員:1人以上 兼務可
  • 管理者:原則専従だが、支障がなければ兼務可



  • 私の働いていた法人が運営している有料老人ホームでは、看護職員より介護職員の方が多かったです。



    サ高住は高齢者住まい法が根拠となる




    サ高住は、「高齢者住まい法」に基づいて設置される高齢者のための住宅です。



    介護サービスなどの福祉施策を担当する厚生労働省と、高齢者にふさわしい住宅整備を行う国土交通省が共同で管轄しています。



    有料老人ホームに比べて、部屋の広さや設備の基準が細かく決められています。



    サ高住の規模や設備の基準は次の通りです。



  • 居室面積は1戸当たり25㎡以上
  • 居間や食堂などが共同で居室が十分な面積を有している場合は18㎡以上
  • 各居室には、台所・水洗トイレ・収納設備・洗面設備・浴室を設置している
  • ※一定の条件のもと各居室に備えるのと同等の居室環境が確保される場合には、トイレ以外の設備は共同でも可
  • バリアフリー構造である



  • また、サービスの基準は以下のようになっています。





    ケアの専門家が少なくとも日中建物に常駐し、安否確認と生活相談サービスを提供できる
    ※ケアの専門家とは、養成研修修了者、社会福祉法人・医療法人・指定居宅サービス事業所等の職員、医師、看護師、准看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員のことを言います。



    老人ホームを経営する際にはサ高住なら補助金が使える







    老人ホームを経営するためには多額の費用が必要となります。



    全ての費用を用意するのは、なかなか難しいことでしょう。



    そこで、活用したいのが国から受けられる補助金です。



    実は、補助金は有料老人ホームの経営では受けることができません。



    なぜなら、国の「施設から在宅へ」という方針から考えると、介護施設である有料老人ホームは増やせないからです。



    しかし、サ高住は介護施設ではなく「在宅」の扱いになるため、国も整備を進めていることから、補助金を受けることができます。



    ここでは国の補助金である「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」を見ていきましょう。



    サービス付き高齢者向け住宅整備事業




    サービス付き高齢者向け住宅整備事業とは、サ高住として登録が完了した住宅の建設費用を国が費用の一部を補助してくれる制度です。



    具体的な助成額は次のようになっています。




  • 新築では1戸100万円を上限として工事費の10%が助成される。
  • 住宅ではない高齢者生活支援施設を合築・併設する場合には、1施設に1000万円を上限として交付。
  • (この高齢者生活支援施設とは、デイサービスや訪問介護事業所などが該当)



    また、国などの補助金を受けていれば、税制の優遇措置もあります。



    対象となる税金は、所得税や固定資産税、不動産所得税などです。



    まとめ







    老人ホームは、何らかの事情で自宅での生活が難しい高齢者が生活するための施設です。



    国は「施設から在宅へ」との方針を進めており、今後は介護施設の増加は見込まれません。



    そのため、これから老人ホームを経営したいと考えているのであれば、在宅に準ずる施設である「サ高住」の方が需要があると言えるでしょう。



    しかし、どれだけ需要があると言っても、事業計画が甘いと経営難に陥ってしまいます。



    老人ホームを経営する際には、しっかりと事前準備を行い綿密な事業計画を作ったうえで、運営を行うようにしてください。